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「あぐぁああああっ!!」

 山崎は鼻を押さえて、転がり回る。どうやら鼻の骨が折れたようだった。

「ちっ、痛てーじゃねーか」

 長谷川は殴った拳を軽く振る。
 それを見ていた男達は騒然となった。

「おっ、俺はかんけーねぇ。山崎にそそのかされただけだ!」
「そうだっ、山崎が大丈夫だっていうから、話に乗ったんだ!」

 みっともなく言い訳をする男に、誰も耳を貸すものはいない。

 その上、自分だけ逃げようとする男までいた。

 しかし、もちろん逃げられるはずもなく。長谷川が連れて来た男達に捕まった。

「ったく、俺が来るまで待ってろって言っただろう。この馬鹿っ!」

 皇紀の頭を長谷川が殴る。

「だって、居ても立ってもいられなくて……」
「で……天音を追い詰めてどうするんだよ。間一髪間に合ったからよかったものの」

 皇紀はしゅんと項垂れてしまった。

「す……すいません……」

「おっ、おにいちゃんは、ちゃんと僕を助けてくれました」

 長谷川が驚いたように振り返る。

「皇紀……てめぇー、弟に愛されてんな」
「えっと……はぁ……」

 照れくさそうに皇紀は俯いた。

 長谷川は自分の着ていたジャケットを天音に掛けてやる。

「あのっ……こんなの、汚れますから……」

 天音は自分の汚れた躯が気になった。

「もう汚れちまったし。それに、こんなもん全然汚れたってかまわねーよ」

 微笑む長谷川を、天音は何故か直視できずに眼を逸らす。顔がやたらと熱かった。

「加賀谷、こいつを俺のマンションに連れてって、蓮見の先生に診て貰ってくれ」

 加賀谷は長谷川の父親の秘書のような存在なのだと、説明された。

「皇紀も一緒に行け。こんな状態じゃ家にかえせねーだろ。友達の家に止まるだとかなんだとか連絡しとけよ。騒がれても困るしな」

 だが、長谷川の言葉に皇紀は反抗する。

「いやだ。俺もココに残って、こいつらぶっとばしてやる」
「復讐なんていつだってできるだろ。こんな状態の天音を一人きりにさせるな」

 ハッと気づいたように、皇紀は天音を見た。

 長谷川は天音を抱き上げて、皇紀に渡す。

「長谷川さん……あの、助けてくれて、ありがとうございます」

「馬鹿っ、礼なんて言うな。お前は俺のモノだからな、助けるのが当たり前だろ」

 お前のモノと言われるのが、やけに嬉して恥ずかしかった。

 こんな汚れた僕でも、まだそう思ってくれるのかな?
 そんな不安を、天音は口にする事ができなかった。

「俺の方こそ悪かったな……助けるのが遅くなって……怖い思い、させちまったな……」

 長谷川の手が天音の頬を撫でる。
 すると、突然。天音の大きな瞳から、ほろほろと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「ど、どうした、痛いのか!?」
「ちがっ……なんだか長谷川さんの顔みたら、すごく安心して……」

 動揺していた長谷川が息を吐く。

「そうか……大丈夫だ。ここもすぐに片付けて、天音のところに戻るから」

「本当に……?」
「ああ、だから安心しろ」

 それを聞いて、天音は力が抜けたのか意識が薄れ始めた。

 天音が皇紀に抱えれて、家から出て行こうとした瞬間、派手に何かがぶつかる音がした。その後に、男達の怒声や悲鳴、絶叫が響きわたる。

 部屋の中で何が起きてるか、想像するに容易かった。

 

 天音が目を覚ますと、目の前に長谷川がいて驚いた。
 寝苦しいと思って起きたのは、どうやら長谷川の腕が躯の上に乗っていたからだった。

 辺りは既に真っ暗だ。天音の為なのかスタンドライトの仄かな明かりだけ灯されていた。

 長谷川のマンションに連れてこられて、皇紀に風呂に入れられて、お医者さんに診て貰ったまでは、なんとなく覚えている。

 そう言えば、ずっと付き添ってくれていた皇紀の姿が見えない。もしかして別の部屋に寝ているのだろうか。

 眠っている長谷川は、なんだか彫刻のようだと天音は思った。

 キレイとか格好いいとかいうのではなくて……そう例えるなら、雄々しいという感じだ。

 まるで獅子のような……そうゆうイメージだった。




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