Real

 52

 病院を出ててから外で飯を食べてから大和の家に帰った。

 その夜、初めて大和は俺の躯を求めてこなかった。
 大和のくせに、俺を労ってくれているらしい。

 確かに今日はどうしてもそんな気分にはなれそうもなかった。

 いつもは傍若無人の俺様のくせに、こうゆう時だけ空気を読むなんてずるいヤツだ。

 二人でベッドの上でただ横たわることにすごく違和感を感じる。いつもは抱き合って身も心もぐちゃぐちゃになって意識をなくすように眠りにつくのが普通だった。

 だから、なんとなく居心地悪い。

「大和……いいのか?」

 だからそんな風に尋ねた。
 
「ば〜か、どれだけ俺を獣と思ってんだ」
「違うのか?」

「俺の深い愛を知れ」

 そう言って大和は俺を抱きしめた。

 いつもなら振りほどくところなのに、大和の体温がやけに心地よくて、俺は振りほどくことができなかった。

 誰にも頼ることも甘えることも許されなかった俺にとって、大和の腕の中はやけに甘くて温かかった。

 ***

 微かな意識の中でそれが隆一なのだと、俺は知っていた。

 俺の傍らにいて話しかけたり、手を握ってくれたりする。

 俺は起きて隆一と話したいのに、躯がやけに重いし意識もぼんやりしていて、すぐに眠ってしまう。

 だけど、隆一が傍にいてくれるだけで俺は幸せだった。

 そうゆうことが何度続いたのだろう。体中に痛みを感じて俺は目を覚ました。

 目を開けると、まず目に入ってきたのは真っ白はカーテンと天井。

 ここは……?

 と思った瞬間に、再び全身に痛みを感じだ。一体なにが……と考えて、俺はようやく自分が事故に合った記憶を思い出した。

 そうだ隆一の声がして振り向いたとたんに軽トラックに跳ね飛ばされたのだ。

 宙を舞った記憶はあるが、それからの記憶は途絶えていた。

 ああ俺は死ぬんだと思ったのだが、どうやらしぶとく生き残ったらしい。

 隆一を追いつめるだけの存在なら、あのまま死んでしまっても良かったのに。

 自分の弱さのせいで酷く傷つけた兄のことを思うと、自分が生きていることすら罪悪感を感じる。

 どうせなら、あのまま放っておいてくれたら良かったのに……。

 ぼんやりとそう思っていると、いきなり扉が開いた。

 入ってきたのは隆一で、俺はただ驚いてぼんやりと見つめる。

「司……」

 驚いているのは隆一も同じようで、大きな目を見開くと、俺の元へと駆け寄ってくる。

「司……俺のことが分かるか?」

 なにを当たり前のことを言っているんだろう。この俺が隆一のことを忘れるわけがないのに。

 それより、どうして隆一は辛そうに目に涙を溜めているんだ?

 俺はそのことが気になってしかたなかった。

「司、なんとか言ってくよ。まさか、俺のこと分からないのか?」

 泣いている隆一を慰めたくて、右手を差しだそうとしたら一ミリも動かせなかった。俺の右手はギブスで固定されていた。

 左手は動きそうだが、躯自体が固定されていて自由には動かせない。 
 
 
「……泣くな……隆一……」

 しかたなく声にだしたら、まるで蚊が鳴くように擦れた小さな声だった。

「司……よかった。お前ちゃんと俺のこと分かるんだな」

 よかったと言いながら、隆一は更に涙を流して泣いた。

「お前っ……三日も目を覚まさないし……医者は頭を強く打ってるかもしれないって……ううっ……俺っ、お前になにかあったらって……うううっ……」

 隆一……俺のことそんなに心配してくれたんだ。

 どうしようもなく嬉しくてしょうがなかった。もう二度と隆一には会えないと思っていた。

「バーカっ……俺が死ぬわけねーだろ」

「うんっ……でもっ、俺のっ、俺のせいでお前、事故って……ひっく……お前が死んだら……どうしようって……」

 顔をぐしゃぐしゃにして泣く隆一が愛おしかった。
 一瞬で俺の心を幸福で満たしてくれた。

 


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