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Real 51 誰かに肩を揺すられる。 「君っ、大丈夫か!しっかりしなさい、彼は君の知り合いなんだろうっ!」 その声でようやく意識が戻ってきた。気づくと目の前で司が救急車に運ばれているところだった。 救急隊員はそれから何かを俺に尋ねているようだったが全然理解できなかった。ただ、司の傍から離れたくなくて必死だった。 ただひたすら、自分の弟だと言っていたことしか記憶にない。 俺は酷く混乱していて、そのあとのことは断片的にしか覚えていない。 両親の連絡先だとか、司の状態では緊急に手術しなけばいけないことだとか、いろいろと言われたが、まるで夢みたいにどこか遠いことのようだった。 いつの間にか俺は手術室の前にいて、ただひたすら司の無事を祈った。 そしてどのくらい時間がたったのだろうか、気づくと俺の目の前に大和がいた。 「あんまり帰りが遅いから迎えにきてやったぜ」 大和の顔を見た瞬間、今までピンと張りつめていた糸が、とたんに弛まった。 「大和……」 「おい、今にも死にそうな顔してやがるな。大丈夫だ、司なら殺したって死にゃーしねーよ」 緊張が緩まったとたんに、恐怖と罪の意識に押し潰されそうだった。 「大和っ……俺っ、俺が司をっ!……俺が、あの時名前なんて呼ばなかったら……司はっ……司はこんなことなんかにはならなかったのに……どうしよう……もし、司が死んだら俺のせいだ。俺が司を殺したんだ」 俺の頭の中は黒い闇のようなものに覆われて、心は寒いほど冷たくなっていく。 バチッと激しい音が俺の頬から立った。 頭の芯がブレそうな衝撃と、焼けつくような痛みに一瞬自分を見失う。 「しっかりしろ。お前がそんなに動揺してどうなるんだ。司は死なねぇーって言ってんだろ。俺を信じろ」 なんの根拠もない言葉のはずなのに、大和が言うとなぜかそれが本当のことのように思えた。 「大丈夫だ。馬鹿っ、くだらねー心配なんかしてんじゃねーよ 頭をくしゃくしゃに撫でられて、いつものように傲慢に笑う大和が荒れていた波を徐々に鎮めていく。 「人の弟をゴキブリあつかいになんかするな」 俺は少しだけ冷静さを取り戻した。 「それでこそ俺の隆一だぜ」 流石に大和のものになった覚えはないなんて反論するほどの元気はないが、大和が傍にいることがこんなに心強く思ったのは初めてだった。 俺は大和と並んで手術が終わるのを待った。たかが四時間がまるで永遠のように長かった。 結果的に手術は成功だった。だが右足は複雑骨折で、肋も三本と右手を骨折していたそうだ。今後はしばらく絶対安静とのことだった。 出血ほどには、内蔵などもそれほど痛めてはいない、ヘルメットを被っていたおかげか、頭にも損傷は見られないようだが、しかし意識が戻るまではまで安心はできないらしい。 それでも今のところ命の危険はないようで、それでけで俺は全身の力が抜けてしまうほど安堵した。 よろけた自分を支えてくれたのは、もちろん大和で、今ここに大和がいてくれたことを素直にありがたいと思った。 「ほら、俺の言ったとおりだっただろ」 まるで自分の手柄のように自慢げに言う。しかし、それさえも今の俺は当然のように受け入れていた。 「うん……本当に……良かった」 ゆっくりと恐怖に凍っていた心が解けてゆく。 「よっし、んじゃあ帰るぞ」 突然の言葉に驚く。 「でも、司が……」 まだ傍から離れたくなかった。 「司は大丈夫だって言われただろう。どうせ面会謝絶なんだ。それにそんな真っ青な顔して、お前の方が今にも倒れそうだぞ。飯もまともに食ってないんだろ。兄貴のお前がしっかりしないでどうするんだ」 そう言って病院から連れ出された。それに逆らえなかったのは、大和の言葉がもっともだと思ったからだ。 まさか大和に諭されるなんて思ってもみなかった。
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