Real

 63

「ただいま」

「おかえり…」

 と声を掛けたのは玄関で座っていた司だった。笑顔を浮かべているものの、いつもの様子が違うのはすぐに分かる。出迎えと言うより、調子が悪そうで座り込んでいるように見えた。

「どうしたんだ?」

 荷物も放り出して直ぐに司の元に駆け寄る。司は気まずそうな顔をして、言いにくそうに言った。

「さっき大和が来て、きつい一発を貰っちまった」

 俺は大和がいなくなった理由をようやく悟った。

「きつい一発って、どこを殴られた見せてみろ」

 あの大和が殴ったのだ、とても無事にすむとは思えない。俺は慌てて司に尋ねる。

「大丈夫、腹に一発貰っただけだ。俺だって喧嘩慣れしてるんだ。これぐらいなんでもない」

 どう見てもなんともなくは見えないが、沽券の方が大事というなら我慢できない痛みではないらしい。

「そうかよ。じゃあこんなとこに座ってないでリビングに行こうぜ。立てないようなら俺が肩を貸してやろうか」

 呆れるように俺は言って司に手を差し出した。俺が手を掴むと俺が力を入れる前に強く引っ張られた。突然のことで俺は立っていることが出来ず司の胸に倒れ込んだ。その拍子にギュッと抱きしめられる。

「おかえり、隆一」

 耳元に聞こえる優しい声、その一言に胸が詰まる。
 本当に司の元に帰って来れたのだという実感がひしひしと湧いた。

「ああ、ただいま司」

 こんなに、心が、体が、優しく暖かく感じられることに、俺は涙が出そうになった。

 司と目があう。司の穏やかで優しげな顔。
 ずっとずっと昔、司と喧嘩して以来、いやその前すらこんな表情は見たこともなかったかもしれない。

 ああ、胸のドキドキが止まない、やっぱり俺は司が好きだとつくづく思う。

「どうしたの、俺の顔に見惚れてる?」

 おどけたように司が聞いた。俺は素直に「うん」と頷く。するとなぜだか司の顔が耳まで赤くなった。まさかこんなことで照れるとは思っていなくて俺は驚く。

「こんなに素直すぎる隆一を見るのは初めてだから、ちょっと戸惑ってるだけだ」

 唇を尖らせて子供のように拗ねる。
 そんな司が堪らなく可愛いくて、俺は思わずクスリと笑う。

「笑うなよ」
「うん、ごめんごめん。司を笑ったわけじゃないんだ。俺も同じように考えてたからさ、やっぱり兄弟だなって」
「何それ?」
「さっきの司の表情がさ、すげー優しくて穏やかで、そうゆうの向けられたの初めてだなって。それが嬉しくて、幸せで、司のことやっぱり好きなんだとつくづく思ったんだ」
 
 俺がそう言うと、司は目を見開いて愕然とする。数秒固まった後、司は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「隆一は俺を殺す気かよ」
「えっ、なんで俺、そんな変なこと言ったか?」

 まさか、そんな顔をされると思ってもいなかったから、焦って尋ねた。

「嬉しくて心臓が止まりそうになった」

 そう言われて俺は破顔する。よかった、司も同じように思ってくれていたのだ。

 しばらく妙な間ができた。俺たちはずっと抱き合ったままだった。そのせいかずっと脈が早いままだ。それは司も同じなのだと触れた肌で感じた。

 初めて司に告白されたあの時は身も心も欲情していて、司が欲しくて堪らなかった。
 だが、変に時間を開けたせいなのか、俺たちの間に見えない線ができてしまった。多分、この線を断ち切らないと俺たちは先には進めないのだ。

 そして、その線は俺が切る。だって俺は司の兄さんなのだから。

「司、俺は今からお前の兄を辞める。司はもう俺の半身だから。司は司で俺は俺だ。ひとりの個人として俺は司を愛しているし、それは弟だからじゃない。だから司も俺を兄だと思う必要もないし、気にする必要もない。誰だって兄弟だからとか、男と女とか、そうゆうしがらみで自分の気持ちを偽る必要なんかないんだ」

 司は黙って俺の言葉を聞いていた。きっと司に俺の言葉が届くって俺は信じている。
 司は何も言わずにギュッと俺を抱きしめた。

「隆一……大好きだ」

 耳元に囁かれた言葉に、俺も司を抱きしめる。
 互いの体温に、互いの匂い、好きな人が胸の中にいる幸福。
 それを二人とも存分に味わって、それから体を離す。離れている温もりが少し寂しいと思いながらも、互いにこのままでいられる訳がないと分かっていた。

「隆一、俺のベッドに行こう」
 
 無論、俺は頷かないはずなかった。

   ***

 
 俺は隆一が男と女とか、そうゆうしがらみで自分の気持ちを偽る必要なんかないと言ってくれたとき、泣きそうになっていた。

 涙なんて見せたくないから咄嗟に隆一を抱きしめて見せたが。
 俺は隆一が常識人で、悪く言えば人の目を気にするような気の弱い面があるのも知っている。それでもいつだって俺のことを守ろうとする時は躊躇などしないのだ。

 あのクズのような男を庇った時でさえ、恐怖に怯えながら俺たちの前に立ち塞がった。

 そして今も俺の心を救うように、この弱くて優しい兄は男前のセリフをのたまうのだ。

 完敗だなと思った。
 いや、いつだって負けていたと思う。

 だから、だからこそ、隆一が俺を選んでくれたことが奇跡で、俺は二度と隆一を手放すものかと、もう一度心に誓った。

 

 部屋に入るなり、俺も隆一も一秒でも惜しむかのように自分の服を脱いだ。
 まさか、隆一との初めてのSEXがこんな即物的なものになるなんて、俺が何万回も想像していた、どれとも違っていた。

 だけど、俺の体も心も隆一が欲しくて堪らないのだ。一瞬だって離れたくない。今ももどかしく服を脱ぎながら隆一の裸をチラリと覗き見る。隆一の白い身体には夥しいほどのキスマークがついていた。特に背中とうなじはひどかった。

 それを見た瞬間、俺は嫉妬で視界が赤く染まって見えた。

 俺の表情を訝しんだ隆一が少し不思議そうな顔で聞いている。

「どうかしたか?」
「なんでもない」

 大和に嫉妬したなんて死んでも言いたくない。ぶっきらぼうに答える俺に隆一はふーんと答えて苦笑する。どうやらバレているようだ。藪蛇になりかねないので追求はしない。

 それに今から隆一は俺だけのものになるのだ、昔の男になど嫉妬などするものか、そんな嫉妬する時間すら惜しい。今から隆一を俺色に全て塗り変えるのだから。

 ジーンズと下着を同時に脱ぎ去って、俺は隆一に覆い被さった。

 まるで吸い寄せられるように、隆一の唇を貪る。ずっとずっと夢にまで見た隆一の口付けはひどく甘かった。

 隆一の口腔の全てを把握するみたいに、舌を這わせる。それこそ敏感な口蓋は緩急をつけてしつこいほど舐め回す。

「んっ…ふあ、んんっ、アッ、あぁあっ、ふぁあっ、ああっ…」

 隆一の鼻腔から艶めいた嬌声が何度も漏れる。
 ああ、堪らない、堪らなく、いい声。すげー。

 俺は隆一の嬌声だけで興奮する。もっと、もっと、隆一のいやらしい声が聞きたい。

 俺は隆一の口腔を嬲りながら、互いに硬くなり始めたペニスを擦りつける。俺で勃起してくれているのが泣きそうなほど嬉しい。
 
 俺の頭の中は隆一でいっぱいだった。

 隆一の熱と汗。
 隆一の耳を犯すほどのエロイ声。
 隆一のしっとり吸い付くような滑らかな肌。
 隆一の匂い。

 どれも俺をおかしくさせる。たまんねー。
 一度顔を上げて隆一の顔を見た。顔を紅潮させ、快感に焦点の合わない目をした隆一はまさしく欲情したメスの顔をしていた。

 くそっ、エロすぎる。

 今すぐ隆一の中に俺のチ◯コをぶち込んで、ガンガン奥に突き上げたい衝動に駆られるが、流石に慣らしもしていないアナルに俺のギンギンに勃起したチ◯コを挿れたら隆一がケガをする。しかし俺は、この爆発してしまいそうな欲求に我慢なんてできない。

 俺は隆一の両膝を胸につくような格好にさせてぴっちりと閉じた内腿に自身のリビドーを埋める。肉に包まれる感触と俺と同じように熱く硬い隆一のペニスを感じて、めまいにも似た歓喜と劣情が奔流する。とりあえず素股でいい。この灼熱が鎮められるならなんでもよかった。

 俺は夢中になって腰を振っていた。
 パンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッ────────!
 激しく肉打つ音が鳴り響く。

「アッ、ひぃ、アッ、あぁああっ、ひぃ、ひぃ……あ、熱いっ、司ぁ────!」

 腰を振るごとに脳から酸素が奪われれるような酩酊と快感を獲ながら、同じように快感に喘ぐ隆一の乱れた様に更に興奮する。
 何度も勃起した隆一のペニスと睾丸をゴリゴリと擦りつけ、次第に互いの先端が濡れてきて、二人の股間の間でグシュグシュ、ジュブジュブと粘液の濡れて擦れた音を立てる。それが一層興奮を高めた。

「あ゛っ、あ゛っ、ひぃっ、あぁああっ、あひぃ、ひぃ、んんっ!」

 更に隆一の嬌声も艶やかさを増し、ビクビクと体を痙攣させている。その蕩けた顔を見ればその快感がいかほどか想像に難くない。
 ますます俺は性急に腰を振る。素股なんてこれまで一度だってしたこともない。なのに隆一と肌が触れ合っていると言うだけで今までのどんなSEXより興奮した。

 グチュ、ジュツッ、ジュブッ、ジュブッ…。

「ひぃんっ、あっ、ひぃあっ、んんっ!あぁあああ、んんっ…!!」

 隆一の薄い胸が何度も跳ねて、シーツを掴む手には強く力を入れているせいで筋が浮き出ていた。絶頂が近いことは明白だった。

「やっ、はぁあっ、あぁああっ!い、いくっ、はぁあ、んんっ、いくぅ!!」

 俺の限界もそろそろだった。隆一の体がビクンと跳ねて、ふるふると震えたあと腹に温かな精液が掛けられる。それと同時に俺も果てた。

 はあはあと呼吸を荒げ、イッたあと弛緩した体を横たえる隆一を見ながら、俺はまだ興奮が止まなかった。
 
 とにかく最高だったのだ。
 ただの素股の擬似SEXだと言うのに体もだが、心というか、訳のわからない多幸感とか、胸に込み上げてくる感動とか、俺が今までやってたSEXは、ただのオナニーだったと思えるぐらい別のものだった。

 そんな訳のわかならい感動の余韻に浸っていると、視界のはっきりとしてきた隆一と目が合った途端に、へらっとした笑みを浮かべる。

 締まりのない笑顔、なのに紅潮して潤んだ瞳で微笑まれると、愛おしくて胸が締め付けられる。

 俺は堪らなくて、隆一にキスをした。

 好きだ、大好きだ。とその気持ちを込めて、隆一と深い口づけを交わす。
 温かで、柔らかい、粘膜を味わうように互いの舌を絡ませる。

 隆一と深いキスを味わいながら、俺は隆一の滑らかな肌に掌を滑らせる。吸い付くようなしっとりとした肌を余すことなく触れていく。

「んっ」とか「あぁっ」とか時折甘い吐息が塞がれた唇から漏れ出てくる。特に反応がいい場所はじっとりとねっとりと触れる。その度に漏れる嬌声。

 堪らん。興奮する。いやらしい。

 俺は思うがままに、存分に、隆一の敏感な肌の感触を味わう。楽しくて仕方なかった。
 その内に小さな胸の突起が掌に触れた。すでにぷっつりと立ち上がって硬く凝らせている。

 俺は新しく見つけたオモチャみたいに、その胸の突起を摘んで揉んだ。

「ひぃ、アッ、んんっ!!」

 クリクリとその凝りを転がすだけで、隆一の体は面白いように跳ねた。俺は思わず唇を離して、快感に悶える隆一の顔を間近で見つめる。

 快感を堪えるように、眉根を寄せて真一文字に唇を結ぶ。しかし、紅潮した頬や、縋るように見つめる潤んだ瞳や、口元の緩みが、全くそれを隠せてはいなかった。いや、その堪えるような表情が更にエロさを引き出させていると言っても過言ではない。

 俺はいやらしい小さな粒を指先でしつこく弄る。

 クリクリ、ギュ、コネコネッ、キュッキュッ、グリグリッ。

 緩急をつけながら揉んだり抓ったり叩いたりする。

 最初は一生懸命堪えようとしていた隆一の嬌声が次第に堪えきれず大きくなっていく。

「あっ、ふっ、あぁっ、んんっ、ふぁああっ、あぁああっ!」

 腰がいやらしく揺れ、萎えていたペニスも勃ちはじめていた。俺は楽しくなってきて、弄りすぎて赤くなってきた片方の乳首に吸いつく。

「ひぃやぁ、うっ、あっ、んんっ!!」

 チュパチュパと音を立てながら、乳輪ごと吸い付き、歯で甘噛みし、舌で乳首を転がす。

「アッ、んんっ、やぁ…んんっ、乳首っ…あんっ、ばっか…いじっ…なっ」

 はあはあと息を荒げながら隆一が、そう訴えてくるが、情事のそうゆう制止の言葉を真にうける男はそうそういない。
 なので俺も可愛い隆一の乳首をいたぶるのを止めない。

「んんんっ、いやっ…って、ひぃ、ううっ、んんっ、俺もっ…したいっ、からっ!」

 隆一は俺の髪を掴んで無理矢理に愛撫を辞めさせる。

「なんだよ、隆一も俺の乳首が舐めたいの?」
 
 俺が不思議そうに問うと隆一はにやりと笑った。

「ばあーか、コッチだよ」

 隆一が俺のペニスを掴む。

「俺だって、お前のこと気持ちよくさせたい」

 そう言って淫蕩な顔で微笑むものだから、俺はすごく胸がバクバクした。


 


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