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顔合わせ
03 「これからどこに向かうんですか?」 省吾に呼び出されたのだから、友里はてっきりいつもの社長室だと思っていた。だが最上階に社長室はない。 「ああ、第一会議室にお前を連れてくるように言われてる」 第一会議室とそう呼ぶものはあまりいない。 「そうだ。お前は初めてだったっけ?」 「一年目の私が来れるわけないじゃないですか」 基本、上層階に平の社員が入ることは滅多にない。 ここは役員の執務室や、来客用の応接室ばかりだった。 第一会議室は役員会議や株主総会、重大なプロジェクトのコンペになどに使われている。 どれも友里には無縁のものばかりだった。 「まあ、俺も部長の付き添いで一度出たことがあるだけだけどな」 「それでどうして私達が呼ばれているんですか?」 友里の質問に、真田は肩を竦めた。 「そりゃ、行けば分かるだろうよ」 セキュリティーカードを通し、フロアの奥へと進む。 第一会議室と書かれた扉の前で、もう一度セキュリティーカードを通した。 扉を開けると、そこには一面のパノラマが広がっていて、まるで空の中に迷いこんだようだった。 「待ちかねたよ友里」 その中心にいる人物に友里は目を奪われる。 省吾さん────っ! 鮮烈な白と青のコントラストよりも、彼の姿が友里の視線を攫った。 「しょ……」 思わず名前を呼び掛けて、言葉を飲み込む。 そこに省吾だけでない他の人の姿も見つけたからだ。 「お、お待たせしまして申し訳ありません社長」 浮き立つ心とは裏腹に、懸命に心を落ちつかす。 「おや、目が赤いようだが……」 「あのっ……これは目にゴミが…入って……」 とっさに言い訳をしてしまった。 しかし省吾は真田に顔を向ける。 「つまみ食いをするなんて、はしたないと思わないのかね、真田君」 すっかり省吾にはばれているようで、友里は恥じ入るばかりだった。 だが真田本人は至って平然としている。 「誰もいない場所で空腹に美味しそうな御馳走が目の前にあったら、つまみ食いをしたくなるのも当然でしょう」 それを聞いて省吾が破顔する。 「君はしょうがないイタズラっ子だね」 「まだ、若いもので」 社長にでさえ、もの怖じしない真田に友里はただ感心するばかりだ。 「今日、友里に来てもらったのは他でもない。彼らに君を紹介しようと思ってね。なかなか彼らも忙しい身だから、こんな風にそろうこともめずらしいんだよ」 そう言う省吾の隣にいる面々を見て、ただ友里は恐縮する。 「もちろん、友里は彼らのことを知っているだろう?」 「はっ、はい。もちろんです」 「まあ、でも一応紹介しておこう」 それはそうそう足るメンバーだった。 「右から我が社の松原専務、庄内常務、有川副社長だ」 松原常務と庄内専務は社長とほぼ代わらない年令で、副社長の有川だけは彼らより10歳ほど若い。 松原は優しげな伊達男といった風貌で省吾とは別の意味で女性に人気がある。 逆に庄内は背が低く割腹がよく威圧的で、いかにも一角の人物に見える。 ひとり若い有川は、顔は整っている方だが硬質的な表情と銀縁のメガネが知性的だが冷酷そうに見せていた。 ← / → / 戻る / Top |