呼び出し
 02

「どうかしたのかい、随分顔色が悪いみたいだが」
「いえ、いいえ。なんでもありません……」

 震える声で、そう答えた。
 
 まさか、社長も知っている……?
 いや、そんなはずはない。知っていたら、こんな普通に接するはずがない。

「あの……高津専務とはお知り合いなのですか?」

 随分、親しそうに名を読んでいたので気になった。

「ああ、あいつとは大学時代からの腐れ縁でね」

「お友達なのですか?」
 
 友里がそう言うと、社長は豪快に笑った。

「あいつとは友達というより、ライバルと言ったほうがぴったりくるな」
 
 社長の言葉はなんとなく友里にもわかった。高津専務も社長も良く似たタイプだった。

 互いにリーダー格なのだ。馴れ合うより競い合うほうが性にあっているのだろう。  

「あいつと私は好みもよく似かよっていてね。その度に競い合いだよ。互いに自分がその分野では一番じゃないと気がすまないからね」

 それで二人とも成功を納めているのだら凄い。

 二人は友里の尤も懸け離れたような人物だった。本来なら一生縁遠いような人たちだ。あの夜までは……。
 
 しかし、社長はどうして僕をここに呼んだのだろう。労うだけなら、もう十分な気がした。

「そう、高津とは好みのタイプも同じでね。いつも恋人を奪い合っていたものだよ」

 一瞬、社長の目つきが変った気がした。
 高津専務と好みが同じだなんて……。

 いや……そんなはずはない。
 僕はきっと被害妄想に捕われているんだ。

「だから今回のことをあいつに聞かされて、私は悔しくて溜まらなかったよ」

 友里は自分の心臓が、次第に早く鼓動を打ち付けているのに気づいた。

 胸が苦しい……。

「灯台元暗しというか……いや、それもあいつの嫌がらせなのかもしれない。人事にまで口を挟んでいたという話だ。上手くいったら、私に見せつけてやるつもりだったのだろう。悔しいことに、まんまとヤツの策に乗せられた」

 これ以上社長の話を聞きたくなかった。

「社長……私は……」

 ふいに呂律が回らなくなった。
 猛烈な眠気に襲われる。

 これは……まさか……。

「君もよくよく薬を盛られるようだ」

 ニヤリと社長が笑った。

「そんな顔をしなくても、大丈夫。悪いようにはしないよ」

 崩れそうになる躯を、社長がすばやく抱きかかえた。

「友里……私もそう呼んでも構わないかい?」

 瞼が酷く重くて、暗転したのと同時に、友里の意識は薄れていった。

 

「ああっ……いやぁあ……ダメっ……もっとぉ……」

 ぼんやりとした意識のなかで、卑猥な声が聞こえてきた。

「……悪い子だな、自分から腰を振って、そんな浅ましいことをしてはいけないな」

 ああ、この声は高津専務の声……。
 また彼が僕を抱きにきたのだろうか……。

 友里は鈍い意識のまま、そう思った。

「いやぁあっ……そんなっ……あんっ、見ないでぇ……」

 いや違う。若い男の声……。
 高津専務は別の男を抱いているの?

 ジュプジュプといやらしい粘液が擦れる音がした。

「あぁっ……あぁんっ……うぅっ……アッ……」

 気持ちが良さそうに、高津専務に犯されて喜んでいる声だ。

 友里はなぜか胸がモヤモヤとした。

「ダメだって言ってるだろう、友里。欲しいなら、ちゃんとお強請りしなさい」

 えっ……?
 高津が呼んだのは自分の声だった。

 これは……どうゆうこと……。

 友里は重い瞼をようやく開ける。
 
 目の前に繰り広げられる光景に友里は固まった。



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