デート

 02

 ワンピースを着た真澄は、感嘆するほど可愛かった。

 ワンピースの上からはニットのレースカーディガンを羽織い、足下にはフレンジのショートブーツ。真澄のイメージだけで選んでくれたショップの店員に脱帽する。

「いいね……とても素敵だ」

 喜ぶ私とは裏腹に、真澄の表情は不快そうに歪む。
 多感な年頃だけに、男としての矜持が女装など許さないのだろう。
 しかし、そんなところも可愛いと思ってしまう私は、余程真澄に惚れているのだろう。

 むくれるように突き出した口唇にさえ、愛おしさを感じてしまう。
 私は我慢できず、真澄を抱き寄せると、その愛らしい口唇に自分の口唇を押し当てた。

 真澄は最初抵抗するような素振りをしてみせたが、私との約束を思い出したのか、次第に抵抗する力が弱まった。
 
 私は彼の細い腰をぐっと自分に押し当て、柔らかな口唇に何度も吸い付き、口内を味わうように、ねっとりと舌を這わせた。

 カチカチに強張った躯が、彼の小さな舌を絡めとり、吸い付き、どちらの唾液とも区別のつかなくなったものを何度も嚥下する頃には、力も抜けて、私に縋り付いていた。

 口唇を離すと、快楽に蕩けた瞳をしていた。
 あからさまに欲情した艶を含んでいた。

「そんないやらしい顔で誘わないでくれ。今すぐ君を犯したくなるじゃないか」

 耳元で囁くと、真澄は顔を赤く染めた。

「なっ……僕は、誘ってなんかいません」

 ああ、どうして彼はこんなに可愛いのだろう。今すぐ、そのヒラヒラのスカートの中に手を差し込んで、パンティーを降ろして、自分のチンポをぶち込んでやりたい……。

 私は沸き上がる欲求を必死で堪えた。

「残念ながら、君とセックスすると予約した店に間に合わなくなってしまうからね。まだお預けだよ」
「だから……僕は誘ってなんかいないって言ってるでしょ」

 必死で言い訳する彼に、私は思わずクスクスと笑ってしまった。

「さあ、おいで時間がない」

 私は再び真澄の手を取ると、公衆トイレを後にした。

 
「あの……逃げたりなんかしないので、手を離してくれませんか?」

 恥ずかしいのか、俯いたままの真澄が言った。

「ダメだよ、デートだって言っただろ。原則今日一日、君は私と手を繋いでなくてはいけないよ」

 こうやって誰かと手を握るなんて久しぶりのことだった。妻とは遥か昔に、息子とは小学3年生ぐらいまでじゃなかっただろうか?
 
 私は自分が中年で、くたびれた男だと自覚はしているが、真澄とこうやって一緒にいると自分の年を忘れて、まだ学生のままのような気がした。

 こんなに嬉しくて楽しいことなんて、本当に久しぶりのことだった。
 まるで春の日向のように高揚する気分が押さえられない。この幸せを声高に叫びたい騒動にかられる。
 気が緩んだら、笑みを浮かべてしまいそうだった。

「さあ、ここだよ」

 私が予約した店に、真澄が足を踏み入れると、彼は驚愕した様子で立ちすくむ。
 
 そこは若い女の子達に人気の美容室だった。

「いらっしゃいませ。ご予約の新宮様ですね。メイクアップとヘアーセットはそちらのお嬢様で宜しいですか?」

 美容師のそつがない接待に、真澄はすごく動揺していた。

「あの……僕は……」

 真澄は困ったように、私の背に隠れて、縋るように見上げてきた。

「実は……娘でなくて、息子でして」

 そう私が言ったときの美容師の顔ときたら、笑いそうになるのを堪えるのが辛かった。

 真澄も、酷く驚いた顔で私を見る。

「えっ……あの……息子さん???……えっえええっ!!」

 美容師の声が店内に響く、店中の視線が彼女に注がれて、その失態に彼女は耳迄真っ赤にしていた。

「あの……申し訳ありません。全然、男の子だなんて思わなくて……」
 
 彼女は恥ずかしそうに詫びた。

「いえいえ、こんな間違われるような格好をしてるこちらが悪いわけですから」

「でも、確かにどこから見ても女の子としか見えませんもの」

 それはそうだ、その辺の女達と比べても、断然真澄の方が可愛いのだから。

「実は学校の女装コンクールに出場することになったんですが、なにしろうちは父子家庭なもので、メイクのひとつも分からないものですから、ここはひとつプロの方に教えて頂こうと思って」

 そんな私の嘘に美容師はすっかり騙されてくれた。
 
 いくら真澄が女の子より可愛くても、下手に男だと隠してメイクさせるのは難しい。
 それなら最初からばらしておいた方がいい。

 美容師の彼女はとてもノリノリで、ばっりちメイクしてれた上に、親切にメイクの仕方まで丁寧に教えてくれた。

 大人びた感じにという注文に、彼女は見事に答えてくれて、仕上がりは年齢よりも随分年上に見えた。
 
 私はその出来に、大変満足だった。

 あまりの美しさに、自分が父親という設定なのも忘れて、思わず見惚れてしまっていたほどだ。

 そこには誰もが羨む完璧な恋人がいた。




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