迷走

 03

 次の朝、寝不足のままに電車に乗り込んだ。

 最近の僕は、まず列車の中に彼がいないかつい捜してしまう。

 あれから乗車する時間帯を変えたというのにだ。

 いるはずがないのに、やはりいないことを確認すると落胆してしまう。

 わかっている。こんなことは望んじゃいけないんだって。

 あの人がどれだけ口で甘いことを囁いたって、本気にしてはいけないと。

 だけど……。
 僕の生徒手帳の中には、まだあのメモが挟まれたままだった。

 何度も捨てようと思ったけれど、捨てられなかった。

 そして、日が経つにつれ、あのメモが気になってしょうがない。

 途中の駅でどっと人が乗り込んでくる。

 細くて小さなな僕は人波に押されて、すぐに身動きができなくなった。

 しばらくして、何かが僕のお尻に当った。

 最初は気のせいかと思った。まるで鞄かなにかが当ったように、それはちょんと当ってはすぐ離れていく。

 これは痴漢だと疑ったのは、段々とその感覚が短くなってきたからだ。

 僕は身動きができないので、かろうじて首だけを動かして辺りを見てみるが、それらしい人物は見当たらない。

 ほんの少しだけ、もしかしてあの人が触っているのだろうかと思った。

 だが、僕のお尻に触る手はだんだんと大胆になっていく。

 触るだけだったそれが、撫で始めたのだ。

 大きな温かい手が、ゆっくりと僕のお尻を撫でる。

「うっ……」

 嫌悪にゾッとする。
 
 しかし、その手は無遠慮に腰や腿にまで触れる。

 嫌で嫌で、どうしようもなく嫌でしょうがないのに、僕の肌はザワザワと快感にも似た感覚を感じていた。

 その手は円を描くように、いやらしい手付きで僕を撫でていく。

「ううっ……」

 嫌だっ……やめて……。

 そんな心の叫びが届くはずもなく。

 その手はどんどん奥へと移動する。

 尻の谷間を何度も指先でなぞられた。

 嫌悪と同時に、僕はビクビクと躯が反応するのを止められなかった。

 何度も何度も、まるで焦らせるように、谷間の間を行き来する。

 奥まった会陰からアナルを通って尾てい骨まで、何度も触られていると、僕の躯は次第に熱を帯び始めた。

 もどかしいその愛撫にじれったさを感じてしまう。

「かわいい顔してるくせに、腰まで揺らして、いやらしいな」

 ボソリと低い男の声が、耳元で囁く。

 ハッと横を見ると、そこにはニヤリと嫌な笑みを浮かべる若い男が立っていた。




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