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「確かに……お前、あの女に似て顔だけは可愛いよな」

 顎を掴まれて、俊樹の顔が寄せられる。

 俊樹も泰典に似ている。だが見た目の印象は全く違っていて、泰典が優しげな面持ちなら、俊樹は荒々しげな野性味の溢れた顔つきをしていた。

 二人並べると似てると思うが、個々として見ると、親子とは思えない、そんな感じだった。
 
「親父のヤツ、随分あの女に入れこんでやがったから、逃げられたショックで頭イカレちまったんだな」

 クククッと俊樹は楽しげに笑う。
 
「なっ……なにが可笑しいんですか?」

 父親が女に騙されて捨てられたのに、笑っていられる俊樹の神経が理解できなかった。

「イヤ……クソがつくほど真面目な親父だったからさ。ショック療法ってわけじゃねーが、これでちょっとは、とっつきやすくなったかと思ってな」
 
「どうして……心配じゃないんですか?」

 他人事みたいに冷めて言う俊樹が信じられなかった。

「心配? 心配なら結婚前にしてやったよ。あんな女は止めとけって。俺にまで色目つかってきやがったんだぜ、あの女。金が目当てだって注意してやったのに、俺の忠告を聞くどころか逆切れまでしやがって……ありゃ、自業自得って言うんだぜ」

 薄々分かってはいたけれど、泰典と俊樹の間には容易には埋められない亀裂が入っているようだった。

「ちょっとは勉強できて良かったんじゃねーか」
「そんな……酷い……」

「なに言ってんだ、酷いのは親父だろ。小学生にこんな格好させて、裸に首輪って、どんなマニアプレイだよ……」

 クツクツと笑いながら俊樹はリードを掴んで、彬也の首輪を引っ張った。  
    
「親父に犯されてんだろ。どんなふうに犯られてるのか教えろよ。まさか、紐で縛られたり蝋燭垂らされたりしてんじゃねーだろうな」

 耳に触れるほど口脣を寄せられて、囁くように呟いた。

 ぺロリと耳たぶを舐められて、ゾッとする。

「ヒッ……してないっ……そんなことしてないっ……」

 懸命に俊樹から逃げようとしても、首が締まるだけだった。

「まあ、しらを切るっていうなら、それでもいいぜ。あとでゆっくり聞き出してやる。とりあえず場所をうつそうぜ」

 彬也に有無も言わさず、俊樹は無理矢理にリードを引っ張っていく。
 彬也はイヤでも俊樹についていく他なかった。

 その部屋は俊樹の部屋でも彬也の部屋でもなく、泰典の寝室だった。

 部屋の中まで連れてくると、彬也の躯を軽く持ち上げて、ダブルベッドに放り投げる。

「あんな真面目な顔しながら、こんなダブルベッドなんて買うんだから、あいつも以外とドスケベだよな」

 彬也は俊樹の思惑を知って青ざめる。

「や……やめてください……」

 恐怖に引きつる彬也とは対照的に、俊樹は獲物を追い詰める補食者のように、狩りを愉しんでいた。

「お前の母親には、ひとつも食指は動かなかったが……お前ならイケると思ってたんだぜ」

 ゆっくりと近づいてくる俊樹に、彬也はじりじりと躯を後進させる。

「お願い……近寄らないで……」

 泰典よりヨコもタテもひと回り大きな俊樹は、近づいてくるだけで、とても圧迫感があった。

「その怯えた顔がたまんねーな」

 彬也の躯がベッドの隅に追い詰められるまでアッという間だった。

「もう逃げらんねーぜ」

 ニヤリと笑った顔が、まるで鬼のようだった。

 彬也の心臓はドクドクと、ものすごいスピードで脈打ち、恐怖は最高潮にまで高まった。

「イヤッ!!近寄らないでっ!!」

「騒ぐなっ、殴られたいのかっ!!」

 急に荒々しい声で怒鳴られて、彬也の身が竦む。

「お前が大人しく抱かれるなら、ちゃんと可愛がってやるよ」

 上からのしかかられて、堪らなく怖かった。
 指先がずっと震えていた。
「おっ……お願いです……ゆ、許してください……」

 涙が溢れて、止まらなかった。
 俊樹に抱かれるのも怖いが、それより、泰典に嫌われることの方が、もっと怖かった。

 母親のせいで、泰典は貞操には異常に敏感だった。
 もし俊樹と関係してしまったら、泰典は今度こそ絶対に許さないだろう。

「お願いします……お願いします……」

 彬也は必死だった。必死に俊樹に許しを乞うた。

 


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