温泉

 02

「幸太、人が来たから迷惑にならないようにしなさい」

「は〜い」

 幸太は芳雄の隣で大人しく座った。

 七、八人の男達がゾロゾロと湯舟へと向かってくる。

 それは奇妙な一団だった。なぜなら年齢層がバラバラだったからだ。

 それを見た芳雄は急に青ざめる。

「幸太、そろそろ上がろうか?」

 芳雄は立ち上がると、幸太の腕を掴んで、早々と湯舟から引き上げようとした。

「え〜っ、まだ入ってたいよ」

「俺らがいたら狭いだろ。あとでまた連れてきてやるから」

 芳雄にそう言われて、幸太はしぶしぶ立ち上がった。

「まあまあ、そんなに慌ててでることもないでしょ。こんなに広い湯舟に二人いたところで、わたしらは全然構いませんよ」

 男の一人が芳雄にそう話し掛けた。

「ほら、おじさんもこう言ってくれてるし、いいでしょ。おとーさん」

「だが……」

 まだ芳雄は、迷っているようだった。

「いいじゃあないですか。わたしらもオヤジだけじゃあつまらないですし、坊やに話相手になって貰えれば楽しいですしね。あなただって、温泉に入る為にわざわざ東京からこんな田舎にきたんでしょう?」

 男は笑みを浮かべながらも、どこかその視線には強い光があった。

 芳雄は青ざめたままで、再び湯舟につかった。

「おじさん、どうして俺らが東京から来って知ってるの?」

 不思議に思った幸太が尋ねる。

「ああ、それはね。女将に聞いたんだよ。私達以外に泊り客がいるかってね。そうしたら東京から来た親子づれのお客様がいてるって言われたからね」

「そうか、なんだ。俺はてっきりおじさんが超能力者なのかと思ったよ」

 男はハハハッと笑った。

「それは残念だったね。おじさんには超能力はないけど、別の能力ならあるんだよ」

「ホント? それってどうゆう能力!」

「教えて欲しいかい?」

「うん、教えて」

 幸太は興味しんしんで、男に期待を込めた視線を送る。

「じゃあ、教えて上げてもいいけど、おじさんの膝の上に乗ってくれるかな?」

 おじさん膝の上に乗ることと、おじさんの持つ能力とどうゆう関係があるのだろうと思いながらも、幸太は頷いた。

「ほら、こっちへおいで」

 おじさんの方へ近寄ると、急に腕を掴まれて引き寄せられた。

「幸太ッ!」

 突然、驚くほどの大きな声でとーさんが呼んでビックリした。

「どうしたのおとーさん?」

 普通でない父の様子は、なんとなく幸太にも理解していた。

「幸太やっぱっり俺にはできないっ、帰ろう!」

 まるで必死なほど怖い顔で芳雄は立ち上がると、幸太の方に向かっていく。

 だが、幸太のとことにいく前に、芳雄の体は他の男によって止められた。

「おっと、今更それはないでしょう村下さん」

 後ろからする声に芳雄が振り返る。

「あなただって覚悟してここまで来たはずだ。ここまで用意するのだって、金が掛かってるんですよ」

 そこには仕立てのいいスーツを来た男がいた。

「真田さん……お願いします。許してください。息子にはなんの罪もないんです。お金はどうにかして返しますから、どうかこれだけは勘弁してやってくださいっ!!」

 芳雄は真田に土下座した。

「なにボケたことほざいとんじゃワレっ! どうにかして返すやと? なんの当てもないくせに、なに甘いことぬけしてんじゃ! お前ら二人ともバラバラにして臓器売り飛ばしてもこっちは構わんのやぞ。子供の臓器は高く売払えるしな。それをAV取るだけで許したるって言ってるんや、ええ加減覚悟せいや!」

 渡辺の啖呵に、一瞬周りが静まり返った。 

 芳雄は項垂れた。
 極道の真田に縋ったところで慈悲など貰えるはずもない。

 もうここに来た時点で運命は決められていたのだ。

 幸太はなにが起きたかのか一人理解できずに困惑していた。

 さっきまで楽しく温泉につかっていたのに、今は重い空気でいっぱいになっている。
 
「おとーちゃん……どうしたの?」

 幸太が唯一頼れるのは芳雄だけだった。

 しかしその芳雄も酷くショックを受けたように動かない。

「幸太って言ったな?」

 真田に名を呼ばれて、幸太は怖くて胸がドキドキした。

「はい」

「幸太は父親が好きか?」

「うん、大好き」

「だったら父親のこと助けたいと思うだろ」

 幸太はこくりと頷いた。

「幸太の父さんは俺のところで、いっぱいお金を借りて、返せなくなったんだ。わかるか?」

 父親の工場が上手くいっていないことは幸太もよく知っていた。

「お金がないなら別のことで払って貰うしかない。俺は幸太と父親の内臓を売ってもかまわねーんだが、お前達だって死にたくないだろ」

 真田なら本当に殺されそうで、幸太は怖くなった。
 なんども首を縦に振る。

「だから幸太のエロビデオを撮って売ることにしたんだ」

「エロビデオ……?」

「なに、痛いことはしねーよ。ちょっとこのおにいちゃん達とイチャイチャして仲良くしてくれればいいんだ」

 小学生の幸太にも、真田のいうことが、淫猥なものだとわかる。

 どんなことをされるかもわからくて、怖くてしょうがないけど、自分が断れば父親がもっと困ることになるのだと知っていた。

「わかった。俺、ビデオに出る。だから、お父さんを助けて上げて」

 幸太が申し出ると渡辺はにっこりと笑った。

「よしよし、坊やは父親よりよっぽど肝が座ってるな。後藤、幸太を可愛がってやれよ」

 真田がそう声を掛けたのは、さっき幸太に話し掛けて来た男だった。

 


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