Real

 13

 目を醒ました俺は泣いていた。 
  
 夢から醒めたというのに、まだあの司の傷ついた表情が頭から離れない。

「司……」

 声に出して名前を呼ぶと、自分の声が随分擦れていることに気づいた。

 いやソレだけでなく、体中が痛い……。

 それにありえない場所に違和感を感じた。それでようやく自分が何をされたのかを思い出す。

 寝ているのは自分の部屋だ。
 きっと司が運んできたのだろう。

 今になってようやく、俺は自分が取り返しのつかないことをしたのだと自覚した。

 馬鹿だ俺は……。

 守りたいと思っていた弟を、一番傷つけていたのは俺自身だったんだ。

 胸が痛くて、苦しい。

 痛めつけられた躯よりも、ずっと――――。

「ごめん……司……」

 どうしようもなく涙が溢れた。

 司を守るつもりでいた俺が一番司を傷つけけていたのだ。

 兄としてなんて欺瞞で司を否定して、本当は子供じみた嫉妬で司を独占したかっただけだった。

 それでも司は俺に忠告した。
 きっとそれは司にとって最後の歩み寄りだったのだろう。

 それなのに俺は……それすら踏みにじって、司のことを疑って、望みの糸さえ自らで断ち切ってしまった。

 謝る相手はここにいない。

 それに、司はもう俺の謝罪も聞きたくはないだろう。

 あの処刑は、司にとっては俺への決別状だったのだ。

「ウウウッ……ごめん、司…ごめん」

 届かない言葉……それでも、俺は泣きながら何度も司に謝った。

 苦しくて、悲しくて、辛くて。

 涙はいつになっても枯れることなく。 
 俺は泣きながら、いつの間にか眠っていた。

 ◇

 着メロが鳴る。それは流行りの芽衣が好きな女性シンガーの曲だ。

 この数日何度も掛かってきたが、俺は一度も取らなかった。メールも見ていない。

 いや、電話どころか、俺はこの二週間、家からも出ていない。

 なにもする気にならなかった。

 頭の中では、こんな風に家に籠っていたってなにも良くならないと。

 もっと前向きにならきゃいけないと分かっている。

 分かっていても、できなかった。

 できればずっと眠っていたかった。そうすれば、なにも考えなくてすむから。

 しかし……そう思っていても、いやでも躯は起きてしまう。

 そういう時は、漫画や雑誌を呼んだり、ネットを見たりして、無為な時間を過ごす。

 その日は、テレビを見ていた。どこか工場で大きな火事が起きて、まだ鎮火していないようで、ずっとこのニュースが続いている。

 アナウンサーがヘルメットを被って、工場の前で取材をしている。

 大変だな、なんて思いながらぼんやりテレビを見ていると、インターフォンが鳴った。

 むろん、俺は出ない。だが、普段なら数度鳴らしたら諦めて帰るはずなのだが、その訪問者はしつこかった。

「お兄ちゃん、いるんだろう。俺だよ、俺っ、大和だって! ここ開けてくれよ」

 その声とその名は忘れようとしても、忘れられなかった。

 複雑な気持ちが俺の心を乱す。

「ここにいるって分ってるんだぜ。入れてくれるまで帰らないからな〜っ !」

 大和は大きな声で喚く、近所迷惑も甚だしい。俺は慌てて玄関に向かった。

「煩い、何の用なんだ!」

「やあ、お兄ちゃん。また会えて嬉しいよ」

 扉を開けると、大和は呑気な顔で笑っていた。

「俺は別に会いたくなかった」

「またまた、つれないこと言って。俺はすご〜く会いたかったぜ」

 からかっているとしか思えない軽薄な大和のセリフに、俺は眉を潜める。

「用がなければ帰ってくれないか?」

「ふ〜ん、そんなにショックだったんだ。司に見限られて」

 大和の一言は俺の神経を逆撫でた。


/ / 戻る / Top