Real

 26

 逃げれば逃げるほど追い詰められて、切りたくても切れなかった絆。

 だから無理矢理に引きちぎった。

 あの時、怯えながら縋るような眼差しを向けた兄。

 本当は心が揺れた。
 あんな頼り無げな幼い子供のような顔をした兄を見たのは初めてだった。

 しかし……。

 それを拒絶した俺を見て絶望した表情に、俺は優越感を感じたのだ。

 初めて兄に勝った気がした。
 これで、兄への呪縛から解き放たれると思ったのだ。

 だが、そんな風に優越感に浸れたのは一瞬だった。

 男達の手によって裸にされていくを目にして、激しい嫉妬の炎に灼かれた。

 今にも飛び出して、大和を殴り飛ばしたい気持ちを必死に押さえる。

 俺の大事な隆一が大和に犯される。
 それは、想像以上の苦痛だった。

 どれほど憎んでも俺の中の兄の存在は、綺麗で優しくて宝石のように大事にしていたものだった。

 大和が隆一を犯した瞬間、まるで心も躯もバラバラに引き裂かれた気がした。

 ぽっかりと心の中に大きな空洞ができた。

 兄の悲鳴がこだまする。

 目の前には悲愴なレイプショー。
 
 俺はただ茫然と眺めていた。 

 薬でラリッた兄は、まるで根っからの淫売のように淫らだった。

 男達の性器を口に銜え、尻を突き出して自ら強請り、男達に犯されて歓喜の声を上げる。

 こんなものを俺は見たかったのだろうか?

 後味の悪さと、タールのように真っ黒でドロドロした気持ちだけが残る。

 倉庫の中には、俺と隆一以外、誰もいなくなった。

 隆一の躯には、無数の淫行のあとと、全身が精液で汚されている。

 穢してしまいたいと強く念じていたのは俺自身だった。

 少しでも自分の痛みが分かればいいとそう思った。

 だが、現実はそんな温いものではなかった。

 いいようのない罪悪感と絶望。
 こんなものに意味などなかったのだと知る。

 俺はただ隆一を貶めただけだ。

 俺の心は救われるどころか、底辺のところまで堕ちてしまった。

「兄さん……」

 もう二度と、彼が俺に話し掛けることも笑いかけることもないだろう。

 涙はでなかった。

 心が氷柱のようだった。

 兄の躯を清め、タクシーで家に連れ帰る。
 タクシーが家に着くまでのわずかな時間だけ、兄は俺のものだった。

 疲労に青ざめた顔が俺の肩に寄り掛かる。

 そのぬくもりのせいか、先ほどあったことが夢のような錯覚がした。

 こんな風に当たり前に寄り添っていたかった。

 なにが間違ってしまったのだろう。

 いや……理由はわかっている。

 たった一言だった。
 自分がゲイだと告白した瞬間に全てが変わってしまった。

 なぜあんなことを言ってしまったのかと死ぬほど後悔したが、あとの祭でしかなかった。

 ベッドに寝かす前に、兄の躯を抱き締めた。

「兄さん……」

 そっと口脣に触れた。

 これで最後なのだと思うと、思わず口づけていた。

 胸が震える。

 熱く昂る思いは、どこにも行き場がなく虚しさに苛まれる。

 兄を寝かせると、振り向かずに後にした。

 俺の心はあの時死んでしまったのだ。

 


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