Real

 32

 必ず隆一を見つける。

 そして、今度こそ本当に決着をつける。

 結局のところ、俺は全部逃げていただけだ。

 一度も本心で隆一にぶつかったことはない。

 俺は怖かった。
 隆一に嫌われることが。

 大和達にレイプさせたのも、自分自身で手を下すのが怖かったからだ。

 いろんな言訳を並べてみても、所詮はそうゆう事だ。

 今になって冷静に判断すると、あれはきっとトラウマなのだろう。

 自分自身の知らぬままに、そのトラウマが俺を臆病にしていた。

 昔の隆一に言われた言葉が、まだ俺の心の深くに突き刺さっている。

 この棘が抜けないかぎり、俺はずっと隆一に捕われたままなのだ。

 だから今度こそ、ちゃんと終わりにする。
 
 だから隆一……死なないでくれ。

 俺はただそれだけを願った。

 ****

 久しぶりに帰った家に母親はすでにいなかった。

 息子がいなくなったというのに、どうやら再び職場に戻っているようだった。

 昔から子供に対する執着は薄い方だと思ったが、まさか、息子の行方より仕事を選ぶとは思っていなかった。

『心配に決まってるでしょ。それに警察にも届けを出して、思い当るところには連絡してみたわ。それ以上私にどうしろっていうの。仕事を休んで、あの子が帰ってくるというのなら、私も休むわ。でも、そうじゃないでしょ。今、重大なプロジェクトを抱えているのよ。休んでばかりもいられないわ。それにあの子も大人なんだら自分の面倒ぐらい自分で見れるわよ』

 どこまでも自分勝手な言い分だった。

 普通子供が大事だったら、仕事なんか手につかないもんだろ?

 そうゆうことすら思いつきもしないのだ、あの人達は。

 子供は飯と住むところと金さえあれば勝手に育つと思ってる。

 確かに家事だけはやってくれる家政婦はいた。

 掃除とクリーニングは週に三日。
 平日の夕方5時きっかりに、きめられたメニューで作られる晩飯。

 栄養を配分して作られるメニューは、あまり子供の好きなおかずなんてない。

 俺達はいつも清潔で食べるものに飢えることはなかったが、それだけだった。

 隆一が料理を覚え始めたのは、たぶん小学生の高学年ぐらいだった。

 火は危ないからと、ホットプレートでパンケーキを焼いてくれた。

 俺が家政婦の料理が嫌で、ダダを捏ねていたら、隆一が作ってくれたのだ。

 今思えば、小麦粉と卵と牛乳を掻き混ぜただけの簡単なものだったが、それは今まで食べたどんなものより美味しく思えた。

 それから何度も隆一は俺の為にパンケーキを焼いてくれて……。

 もう随分長い間、隆一のパンケーキを俺は食べていない。

 隆一の部屋に入ると、部屋は散らかっていた。

 食べたパンの袋や、飲みかけのペットボトル、乱雑に散らかった雑誌や本。

 綺麗好きだった隆一の部屋とは思えない散らかりようだった。

 確かに、隆一を連れて帰ってきたときは、綺麗に片付いていたはずだった。

 あの時、持っていたデイバッグ。開けると、スケジュール帳が入ってた。
  
 開けると丁寧な字で、大学の講習の予定やら、デートの日付けなんか細かに書いてある。

 少し右上がりの癖のある字。

 あの日以降、そのスケジュールはほとんど書かれていない。

 


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