Real

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「なんだよ、人間じゃなきゃ俺を一体なんだと思ってたんだ?」

「俺には想像もつかない未知の生物。もしくはエイリアン」 

「ひでーな。こんなに隆一のこと愛してんのに」

 そんな恥ずかしいことさらりと言うな。

「ホント、どうしてかな。こんなに側にいても、隆一がどこかに消えてしまいそうで怖い。隆一が自分の視界からいないと不安でしょうがない。こんなこと初めてだ」

 強く抱き締められて胸が苦しい。

「馬鹿っ、人がそう簡単に消えるかよ。苦しい、離せ大和!」

 がっしりした大和の腕の中ではいくら暴れても外れない。

「消えるよ……人なんて呆気無く、消えるんだ」

 そう呟いた声は、俺が聞いたどの声とも違っていた。

 まるで哀しむような寂しいような、そんな声だった。

「……大和?」

 一体、どんな顔をして言葉を発しているのだろう。

「大体、隆一がもっと俺を愛してくれれば、こんな不安な気持ちにもなんねーと思うんだよ」

 躯を離した時には、すでに飄々としたいつもの表情に戻っていた。

「だから隆一から、大和が好き好き大好きっていいながらチュ−してくれて、色っぽく服を脱いで足を広げて大好きな大和のデカイチンポを隆一のいやらしいケツマンコに挿れてズコズコして欲しいのって誘ってくれたら一人で出してやってもいい」

「……バカだろ、お前」

 呆れた冷たい視線を大和に向ける。

 そんなことするぐらいなら、大和を連れてスーパーに行った方がよっぽどましだ。

 つーか、照れ隠しにはぐらかすにしても、もうちょっとマシなネタはなかったのか?

「まっ、隆一も納得したことだし、買い物に行こうぜ。俺、腹へった」

 しょうがない。いろいろ思うところはあるけれど、今は休戦としよう。

 腹が減っては戦もできない。

 そして俺はしぶしぶ大和と連れ立ってスーパーに向かった。

 ***

 やはりというか、想像どおりというか、スーパーの大和は浮きまくっていた。

 特に年の若い奥様方は大和に釘付けで、まるで客寄せパンダのように人だかりができる。俺は恥ずかしくて急いで買い物をすませた。

 大和の冷蔵庫には、ほぼビールとチーズのようなつまみしかないので、手当りしだい野菜やら肉やらをカゴに入れた。

 荷物が重いと文句を言う大和を無視して家路につく。

 帰り道に突風が拭いた。

 差すような陽射しとコンクリートの照り返しが目に痛い。

 そして目にした青々と茂る緑に、もう夏が来たのだと実感する。

 気がつかなかった。

 いや、気づく余裕すらなかった。

「どうかしたか?」

 立ち止まる俺を、不思議そうに大和が尋ねる。

「もう、夏……なんだな」

「ああ、まったくあっちぃよな」

 もう、あれから一ヶ月も経っているのだと俺はようやく気がついたのだ。

「隆一……?」

「いや、なんでもない。早く帰ろう」

「ホント、腹減りまくりだって」

 大和の言葉に思わず微笑んだ。

 確実に時が流れているのだと実感する。
 
 俺が司にしてやれることはなにもないのだと、そう理解するにはまだ辛い。

 だが、案外人間ってものは図太いらしい。

 世界が終わったと思うほどの絶望も、生きている限り、メシを食い、眠って、セックスをする。

 そんな日常が俺を少しづつ変化させている。

 それは残酷なようで、救いでもあった。

 きっと俺は生きていける。明日も明後日も。

 とりあえず今は、俺と大和の空腹を満たす為にとびきり旨いメシを作ろう。

 俺の歩幅は少しだけ大きくなった。

 


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