Real

 49

 自分の全てを打ち明けて曝け出したら、隆一はきっと自分を受け止めてくれると思っていた。

 もちろん、隆一が自分を好きになってくれるなど、都合良く思ったわけではない。

 ただ、これでケジメがついて、前に進めるものだと考えていたのだ。

「これ以上、自分のエゴの為に隆一を傷つけんな。お前が本当に兄貴が好きなら、今は俺に任せて放っておけ」

 拳を思いっきり握りしめた。爪が肌に刺さり痛みを感じていても握ることを止められない。

 嫌だ………。

 嫌だ…嫌だ…嫌だ…嫌だ…嫌だ…嫌だ…。

 まるで五歳児のように駄々を捏ね、心の奥からは悲鳴を上げていた。

 隆一に会いたい。
 会いたくて堪らない。

 なのに……自分の存在自体が隆一を傷つける。

 この男に……隆一を預ける。そんなことは絶対に嫌だ。

 他の男に隆一を任せるなんて絶対に嫌だ。
 胸が裂けそうだった。 

 この痛みが俺の罰なのか。
 隆一を傷つけた俺の……。

 大和がタツキに合図を送る。

 そうか……タツキが前もって大和に連絡していたのだと、今になってようやく分った。

 最初からここは俺を断罪する為の場所だったのだ。

 タツキに肩を叩かれた。

「もういいだろう。どうせここにお前の兄貴はいない」

 それは入った瞬間から気がついていた。 
 タツキが自分の味方でないことを、思い知らされる。

 最初から信用していたわけでもないが、少し見通しが甘かったようだ。

 俺はタツキの手を払う。もう、ここにいても無駄なことは分った。

 それから大和のマンションを出てバイクに乗った記憶さえもあやふやだった。

 隆一に会いたかった。

 もう、全てを打ち明けるつもりはなかったが、それでも一目でもいいから隆一に会いたかった。

 隆一が行きそうな場所をバイクで探す。

 昔の友達の家、家の近くのコンビニにスーパー、前のバイト先。

 あのいけすかない女のところへも行ってみたが、隆一はいなかった。

 バイクで滅茶苦茶に走って、気づくと隆一の大学の前にいた。

 よくよく考えると、ここが一番可能性が高いだろう。 

 随分陽が傾き始めて、大学の門の前は大勢の人間が行き来をしている。

 しばらく、ぼんやりと大学の門を眺めていた。もし隆一が出てくるとしたら駅に近いこの入り口だ。

 バイクから門までかなりの距離があったが、一瞬で俺はたった1人の男の姿に釘付けになった。

 隆一だった。

 たった一ヶ月が数年も会っていない気がした。

 遠目から見てもすぐに分かる。彼以外は色褪せて見えるほど、俺の目には隆一以外目に入ってはいなかった。

 久しぶりに見る隆一は痩せていた。

 まるで別人のようにやつれて、顔色もあまりよくない。

 それが自分のせいなのだと分った。

 勝手に涙が溢れてきた。

 どうして俺はあんなことをしてしまったのだろう。

 どうして隆一は俺の兄貴で、どうして俺は隆一を好きになってしまったのだろう。

 消せない過去と罪。
 皮肉な運命。

 どこにも救いはなかった。

 じっと見つめることしかできない存在。

 大和がどうしようもなく羨ましかった。

 せめて血さえ繋がっていなかったら、俺も大和のようになれたのだろうか?

 涙は止めどなく溢れ続けた。
 
 悲しいわけじゃない。
 ただ、虚しいのだ。

 隆一……。

 こんなに愛しているのに。
 こんなに求めているのに、隆一の存在は誰よりも遠かった。

 つらい……これ以上隆一を見ているのは、大和に責められるより堪えた。

 エンジンを噴かせると、隆一とは逆の方向へと走りだした。

 その瞬間、確かに隆一の声を聞いた。

『司────っ!』

 とっさに俺はブレーキを掛けていた。すぐ後ろに軽トラックが走っていることさえ気づかずに。

 


/ / 戻る / Top