|
Real 57 「だから、俺の事なんて隆一が気にする必要なんてない。あんなことした俺が言うのもなんだが、今までみたいに普通の大学生活を楽しめばいい。ひとつだげ言わせて貰うなら、大和とはあまり関わって欲しくない。あいつは良くも悪くも普通じゃないから」 苦笑しながら司は言った。 ダメだ。…と思った。 さっきから酷い胸騒ぎが確信へと変わる。 「なんだよ、それじゃあまるっきりこれから会わないみないな口振りじゃないか?」 俺は思わず不安を口にした。 「それでもいいよ」 予想していたとはいえ、俺は酷く動揺した。 「なっ……」 なにを言うんだと口を開きかけて司に制された。 「だからさ、普通の兄弟みたいに接してくれればいいって言ってんだよ。完全介護の病院に兄がべったり通うなんて普通じゃないだろ。たまに顔を合わせるぐらで丁度いいんじゃねーの」 普通の兄弟……。 そんなこと考えたこともなかった。俺は司に許して貰うこしか考えていなかった。もしかして俺は司に鬱陶しいと思われていたのだろうか? 俺は自己中になってただけなのか? 「また俺は自分勝手な思いをお前に押し付けているのか?」 ぎゅうっと胸が押し潰されそうになる。答えを知るのが怖い。だけど、俺はもう二度と同じ過ちを犯したくない。 「バ〜カ、さっきも言っただろ。俺はもう自分のことで隆一の手を煩わせたくないだけなんだよ。俺だって罪悪感ぐらいあるんだ。それに昔と違って、もう俺は隆一が側にいないとなにもできない子供じゃない。どうせ兄弟なんていつかは離れていくもんだろ。俺はもう一人で大丈夫だって言ってんだよ」 一体、俺に何が言えると言うのだろうか? そう、もう二人で寄り添って生きていたあの頃ではないのだ。 司と和解したとして、昔の関係が戻ってくるなんてどうして言えるのだろうか。 俺は酷い喪失感に捉われた。 そうだ、俺は司と和解さえすれば、前のような関係に戻れるとばかり思っていた。 考えてみれば、そんなことがあるはずもないのに、俺はずっと信じて疑わなかった。 だからかもしれない、その事実が酷くショックで、いつ司の病室を出てきたのかも、どうやってココに来たのかもわからずに、いつのまにか自分の家に帰って来ていた。 大和に攫われたっきりで荒れ果てたままの部屋は綺麗に片付けられていた。 それは司の仕業だと俺にはすぐに解った。 いつも俺が使っていた場所にそれらは戻されていた。司はまだ覚えていたのだ。俺の鞄を置く場所、筆記用具、服、それらの配置はずっと昔から変えていない。 今なら分かる。司はずっと変わっていなかったのだと。 司を色眼鏡で見ていたのは俺の方だ。 こうなってしまったのは全部俺のせいだ。 いつだって俺は自分のことしか考えていなかっただな。 もう幼かった司は、すでに成長して立派に自分の足で立っていた。もう、未熟な兄の存在などいらないのだ。 「フフフ…アハハハハハ……」 可笑しくなって笑が込み上げてきた。 自分が愚かしくて滑稽で、笑わずにいられなかった。 自分の根幹が無くなくなった気がした。 それが全て自分勝手な独り相撲で、お門違いの親切を押しつけて司を怒らせて、あんな散々な目にあってしまったのだ。 これが笑わずにいられるだろうか。 散々笑ったあと空虚が訪れた。 心にぽっかり穴が空いてしまったようだ。 何もする気に慣れずベッドに横になった。
← / → / 戻る / Top |