Life

養父×息子
blue続編/甘々


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 01

「ただいま彬也」

「おかえりなさい」

 家に帰ると、そう言って彬也は笑顔で泰典を向かえてくれる。

 もう彬也の首に首輪は無く、もちろんちゃんと服も着ている。

「もう、ご飯の用意する?」

「ああ、そうだな。そうして貰おうか。私は服を着替えてくるよ」

 そう言って泰典は自室に向かった。

 あれから一ヶ月、彬也の傷はすっかり塞がって、もう通院することもなくなった。

 すっかり痩せ衰えていた躯も、随分と昔にもどりつつあった。

 あの日、目覚めると穏やかな眼差しの彬也が目の前にいた。

 目が合うと、彼はとたんに泣きそうな顔をして「ごめんなさい」と謝った。

 泰典は胸が詰まった。
 そして、更に深く、自分の罪を悔いた。

 目が覚めるとは、まさにこの瞬間だった。

 奈菜を憎むばかりに、酷い偏見でこの子供を見ていたのだと言うことを、本当の意味で理解したのだ。

 泰典は頭を下げて彬也に詫びた。
 人として道を踏みはずした外道な行いをした自分を、許して貰えるとは思っていなかったが、それでも謝らなければと思ったからだ。

 自分にできることならなんでもすると言うと、彬也は首を振った。

「僕はお父さんと一緒に暮らせれば、なんにもいらない」

 それが唯一の願いなのだと彬也は言う。

「そんなものでいいのか? 欲しいものならなんでも買ってやるぞ。ゲームでもパソコンでも」

 自分でもろくでもないと思うが、泰典は償う方法を何かを買い与えることしか思いつかなかった。

「ううん、そんなのいらない。ただ……」

 彬也は少し言いづらそうに、言葉を詰まらせる。

「どうした、なんでも言ってみなさい」

「でも……やっぱり、いいよ」

 なぜか彬也は顔を赤らめて、言うのを止める。

「いいから、言ってくれ。なんでも構わない。私は君になにか償いたいんだ。これでは私の気が済まない。このまま心苦しい気持ちで彬也と暮らすのは私が辛いんだ。私を助けると思って、言ってくれないか?」

 親子で彼にしたことを思えば、どんなことでも彼の望みを叶えなければと思った。

 そうして彬也はようやく重い口唇を開けた。

「だったら……あの、昔みたいに僕に……優しくして欲しいなって……」

 彬也は羞恥のせいか、言葉尻の声が細くなっていた。

「そんなことでいいのか?」

「そんなことじゃないよ。僕には一番大事なことなんだよ!」

 大人しいはずの彬也が、それだけは強く主張する。

「そうか……なら、約束するよ。これからは彬也に優しくする」

 泰典がそう言うと、彬也は泣いて嬉しいと喜んだ。

 泰典はそんな彬也を見て、心が温かくなるみたいな愛おしい気持ちが沸き上がってきた。

 泰典はやり直そうと決意した。できるだけ彬也が望むとおり本当の親子になれるように頑張ろうと思った。

 そうやって、再び二人で暮らし始めて一ヶ月。

 彬也とは以前妻がいた頃と同じように、いや、それ以上に父と子として良い関係を築いていると泰典は思っていた。

 このまま良い形でずっと彬也と暮らしていければと泰典は願っていた。

 しかし、それは泰典の願望であり、現実はそんなに簡単ではなかった。

「いい匂いだな。今日は魚の煮付けかな?」

 リビングに入ると、美味しそうな匂いがする。ちょうど彬也が料理をテーブルに並べたいた。



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