試練

中年×青年
調教、スカ


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 01

 省吾から一緒にご飯を食べようと誘われて、友里はひどく舞い上がっていた。

 上役の三人に会わされたあの日から、10日間省吾から連絡はなく、真田からは、上海から香港や台湾などいろいろ巡っているのだということだった。

 それが今日の昼過ぎに、直接携帯に連絡があった。今日の終業後に車で迎えにくると。

 はっきり言って、午後から仕事が手につかなかった。まあ、もともと大したデスクワークは任されていなかったが。

 今日は真田に頼まれていた資料本を作成する予定だったが、出力するだけで精一杯だった。

 5時になったとたん友里は帰り支度を始めた。

「社長にコネのあるヤツは残業すらしなくていいんだから、お気楽だよな」

 先輩の嫌味にも今日ばかりは右から左だ。

「僕のことが羨ましいなら、今度、水畑さんのこともお話しておきましょうか?」

 そんな返しが出来たのも、心に余裕があるからだ。

 むろん、本当にするはずもない。
 それに、彼が本当に友里のしていることを知ったら、羨ましいなど思わないだろう。

「いや、俺は……そんなことは」

 ようやく水畑も、自分がどれほど幼稚なことをしているか理解できたようだった。

 別に脅すつもりはないが、なにかと言って絡まれるのは本意ではなかった。

 これで少しは大人しくしてくれるだろう。

 部屋から退出しようとすると、偶然真田と一緒になった。

「お前も少しは言うようになったな。成長したじゃねーか」

 真田に聞かれていたなんて、恥ずかしいばかりだった。

「いえ、僕こそちょっと大人気ないことをしてしまったかなと思ったんですけど」

「しかし水畑も馬鹿だよな。自分がしていること、なんで友里がいつでも社長に自分の不利益になるようなことでも告げれる立場にいるってことに気づかね−んだよ。これだから詰め込みで大学卒業したやつってのは使えねーんだよな」

 真田の言葉に友里は苦笑することしかできなかった。

「僕もその1人ですよ」

 ただ水畑よりも早く、社会の辛辣な洗礼を受けただけだ。

「ところで、社長が帰ってきたみたいだな」

 もう情報を手に入れている真田に、友里は少し驚いた。

「いや、お前の顔見たら分かるって。これから待ち合わせなんだろ」

 からかうようにウインクされて、友里は困った顔をする。

「さすが、第一課の営業主任。人の観察眼はずば抜けてますね」

「もちろん、能ある鷹は爪を隠さないんだよ。まあ、お前の弛みきった口元をみていたら誰でもすぐ分かると思うがな」

「からかわないで下さいよ」

 真田に省吾を好きだとバレてしまったのでとても気まずかった。
 
「いや案外、水畑が辛く当るのもそのせいじゃねーか。あいつモテなさそうだし」

 そんな勝手に彼女がいるだとか思われて嫉妬されるなんて余計に迷惑だった。

 友里にとっては会社の立場も恋もまったくままならないというのに。

「まあ、才能豊かで今後大出世間違いなしの、この俺様に惚れてもいいんだぜ」

 曇った表情の友里に戯けるような真田が言った。

 確かに真田なら、才能もあるし世当たりも上手い、今後どんどん出世していくだろう。

「ふふふっ、じゃあ省吾さんに捨てられた時はお願いしますね」

 友里の言葉で今度は真田の表情が曇った。

「じょ、冗談ですよ。本気にしないでください」

 慌てて友里は否定する。

「いや、俺の広い胸はいつだってお前の為に開けておいてやるぞ」

 その返事に友里は少し安堵する。

「でも、そこもういっぱいなんじゃないですか。すごくモテるって噂ですよ」

 男前で独身で仕事もできるとなったら女の子達が放ってはおかないだろう。

 現に同じ課の女の子達同士でも取り合っているっていう話や、六本木でモデルみたいに可愛い子と一緒にいたやら、水商売っぽいゴージャスなお姉さんが派手なポルシェで迎えにきたとか、色事の噂はことかかない男だった。

「いや〜、俺って博愛主義者だから、迷える小羊達は皆救ってあげるつもりなんだよ」

 いやいや羊を襲う狼こそがあなたじゃないですかと、心の中で思う友里だった。

 その上、男までいけるのだから、彼の胸は余程広いのだろう。

「つーか、あんまりのめり込むなよ」

 ぼそりと呟く言葉に、友里は優しさを感じとった。

 最初は非道だと思っていた真田が、意外と人が良いところもあるのだと最近知った。

「ありがとうございます」

「礼なんか言うなよ。俺はお前を自分のモノにしたいだけなんだからな」

「はいはい、そう言うことにしておきますね」

 そう言うと真田は嫌そうな顔をした。



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