顔合わせ

中年×青年
複数


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 01

「おい、坂下はいるか?」

 友里を呼んだのは主任の真田だった。

「はい、今戻りました」

 つい今し方、外から戻ったばかりだった。

「なら、俺と一緒について来い。社長から呼び出しだ」

「ですが、午後一で日吉に発注伝票を送らないと……」

「そんなもん他のやつにやらせればいいだろ」

 そう言われても友里は困ってしまう。
 駆け出しの友里には気軽に仕事を頼める人物などいなかった。

 ましてや、高津専務との契約が取れてからというもの、先輩社員との見えない壁ができたようで、友里は浮いた存在だった。

 たびたび社長に呼び出されることも、その原因のひとつだろう。

 現に皆、真田の言葉は聞こえただろうに、誰も友里と目を合わせようとしない。

「水畑、お前坂下の代わりにやっといてやれ」

 仕方がないと言った風に真田が声を掛ける。

「え〜っ、嫌ですよ。俺もこの後すぐ出ないとダメなんですよぉ」

「もともと坂下はお前の下付きだろうが。それに、お前の出先は長友だろ。多少の融通は聞くはずだ」

「はいはい、わかりましたよ。やればいいんでしょ」

 しぶしぶと水畑は引き受けた。

「すいません、お願いします」

 友里は水畑に頭を下げたが、彼は一べつを向けただけでだった。

 真田について部屋から出る寸前に、水畑の独り言が聞こえた。
 
「あ〜あ、まったく貧乏くじ引かされたぜ。大して仕事もできないくせに、上司に媚びるのが上手いだけで、引き立てられるようなやつの、尻拭いをさせられるなんてさ」 
 
 それは間違いなく友里に聞こえるように言った言葉だった。

 友里は強張った表情で青ざめる。

 水畑の言葉が、心の奥に突き刺さる。

 それはまぎれもない事実だった。

「水畑の言葉なら気にするな。あんなものただのやっかみだ。羨ましいなら一億円の契約を取って来てみろとでも言ってやれ」

 エレベーターを待つ間に真田が言った。

「そんな……僕、いえ私が仕事ができないのは本当のことですから」

 チンと小さな音がなってドアが開く。

「仕事なんて結果が全てなんだ。過程なんてどうでもいい」

 真田は最上階のボタンを押す。まもなく扉が閉まった。

「お前はこの躯で業績を上げた。別に恥じることではないさ」

 真田に肩を掴まれて、友里は思わず後づさる。

 真田の目が服の下まで見られているようで恐ろしかった。

「しかし、まさかうちの社長まで、お前に執着するとは思わなかったがな」

「あの……主任……それはどういう……」

 ニヤリと真田の口角が釣り上がる。

「隠さなくっても分かるって。ここ最近お前の腰付きどんどんエロくなってるし」

 そう言って、脇腹から腰骨の辺りを撫でられた。

「ひぃうっ……」

 その嫌らしい手付きに、服の上からだというのに、肌が粟立つ。

「これぐらいで感じるなんて、すげー感度だな。お前、社長にどんな調教されてんだよ」

 真田は、にやにやといやらしい笑みを浮かべ、ゆっくりと無遠慮に腰を撫でまわす。

 ゾクゾクと這い上がる感覚に躯が震えた。



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